実例医学知識10 抗生剤投与の基本と菌交代、MRSAの治療

敗血症で亡くなった患者さんのカルテを見ると、同種類の抗生剤を、効果が出てないのに漫然と投与し続けている例が散見され、抗生剤投与の基本に反すると考えられます。多くの文献を確認しましたが、細菌の種類と感染源を特定し、かつ、抗生剤の効果を確認しつつ、最適の抗生剤を投与しなければならないとされています。

1 抗生剤投与の基本

抗生剤を使用する際は、可能な限り病気の起因菌を特定し、起因菌が特定できれば、当該起因菌に高い有効性(感受性)を持ち、スペクトル(スペクトラム)の狭い(他の細菌等を害しない)薬剤を必要十分量、投与する。約3日の投与で治療効果を判定し、炎症所見の改善が見られれば早期に終了し、同一抗生剤の使用は14日以内に止める。起因菌を特定できず、推定して治療開始した場合は、起因菌を特定できれば、適正な抗生剤に変更する。

以上の基本に反する使用は、治療に無効であるだけでなく、抗生剤の副作用で一般に健康状態を悪化させる(薬剤性肝炎、薬剤性皮膚障害など)だけでなく、多数派である有益又は無害な細菌を殺傷し、抗生剤の効かない有害な細菌等を異常に増殖させるからである。

2 菌交代

体内に存在する多数の常在菌は、自然界の生態系のように、互いに牽制し合い、人体に有害な細菌の増殖を抑止しており、病原性を有する細菌は、存在しても少数派である。ところが、抗生剤が投与されると、農薬が自然界の生態系を破壊し、農薬に強い害虫が増殖するように、人体に無害もしくは有益である多数派の常在菌を死滅させ、上記抑止力が機能しなくなるため、抗生剤の効かない細菌が増殖し、それが病原性を有する場合、健康を悪化させる。このような、抗生剤によって細菌叢のバランスが崩れ、健常者では少数派である細菌が異常増殖する臨床症状を菌交代と呼ぶ。

細菌感染の治療は、抗生剤だけで可能なわけでなく、患者の免疫力及び常在細菌叢の抑止力を含む人体の治癒力が基礎となる。よって、抗生剤使用の基本に反する使用を行うと、菌交代が生じ、異常増殖した病原性を有する細菌の治療が困難となる。常在細菌叢による抑止力が機能しなくなるため、増殖した病原菌に有効な抗生剤を後から追加すれば悪影響が完全に回復されるというものでもない。

3 MRSAの治療

健常人の体内にも存在し、通常は無害である黄色ブドウ球菌が薬剤耐性を取得したMRSAは、過去に広域スペクトルを有する抗菌剤が多用されたことにより、医療機関にまん延しており、今日、院内感染の主要原因となっている。MRSAは、高齢者及び手術等で免疫力が低下している患者に生じ易く、腸炎、肺炎、全身性の感染症(進展すると敗血症となる)等を発症させる。

フィニバックス等、MRSAに有効ではない抗生剤の投与中、菌交代により、MRSAが出現することもしばしば経験されている。患者からMRSAが確認された場合、それが病気の起因菌であるかどうかを検討し、起因菌である場合は、感染巣(カテーテル、外傷、褥瘡等)の除去及びMRSAに有効なバンコマイシン、アルベカシン等の抗生剤を投与する。MRSAに無効な抗生剤が投与されていた場合は、菌交代のリスクを考慮して中止しなければならない

 

 

 

医療事故の基礎知識

PAGE
TOP