病理解剖の必要性

病理解剖によって、死因と死亡経過が明らかになることが期待できる事案では、病理解剖は患者側に有益であり、是非、実施すべきです。患者死亡前にご相談を受けた事案では、そのように助言しており、私が病理解剖の段取りをした事例もあります。以下、理由をご説明します。

入院中の患者死亡事案では、病理解剖がされているかどうかで、医療事故の賠償請求の可否が分れるか、そうでなくても、患者側からの責任追及が格段にやり易くなる事案が相当あります。死因が不明確である事案は当然として、病院側が死因を患者遺族に説明し、その説明が信用できると考えられる事案でも、病理解剖がない場合、後に病院側がこれと異なる病院側に有利な主張に変更することはざらにあります。死因に争いがない場合でも、病理解剖をしなければ死亡経過(例えば、感染症の原因)に争いが生じる事案は多々あります。以下は、私が実際に経験した事例であり、病理解剖の有益性が明らかです。

なお、病理解剖とは、病死を前提として、死因の確認や診療経過の適切性の検討等の目的で行われます。これに対し、犯罪の疑いがある場合に、警察の介入の下で司法解剖が行われますが、司法解剖の結果は国家秘密となり、患者側に開示されませんので、医療側が起訴されるような極めて例外的な場合を除けば、医療事故の損害賠償請求との関係では、あまり有益ではなく、病理解剖の方がはるかに望ましいです。

(病理解剖がない場合)

◇肺炎で入院していた高齢患者が、退院直前に急変した事案・・・患者側は死因は脱水と主張、病院側は死因は脳梗塞と主張。患者側が多大な苦労をして脱水を証明し、裁判所はこれを認めた。

◇リハビリ入院していた高齢患者が、便秘が続いた後、急変して死亡した事案・・・患者側は死因が大腸閉塞からの腸管穿孔による敗血症と主張、病院側は死因が上腸間膜動脈閉塞症による腸管壊死・敗血症と主張。裁判継続中。

 

(病理解剖がある場合)

◇大腸がん患者が、合併症である大腸閉塞から生じた大腸穿孔で死亡した事案・・・病理解剖で死因は大腸穿孔と確定。これを前提として、大腸がんの診断・治療の遅れの有無と救命可能性が争点(裁判継続中)。

◇体調不良で入院していた高齢患者が入院中に発症したカテーテル感染症で死亡した事案・・・病理解剖で、死因は敗血症であることと、大腿静脈のカテーテル付近に巨大な血栓があり、感染巣となっていることが判明。患者側はカテーテルの不適切使用と血栓の不適切治療を主張し、病院側は、別の原因による感染症を主張したが、裁判所は原告主張を認めた。

◇大腸内視鏡検査時の事故で死亡した事案・・・病理解剖で死因は大腸内視鏡検査の前に投与した腸管洗浄剤の過大投与による腸管穿孔と判明。病院側はこれを争い、不可抗力の誤嚥性肺炎と主張したが、裁判所は採用せず、原告主張を認める。

医療事故の基礎知識

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